凜と生きる

私が経験した「鬱」というものについて

おそろしいこと

夫は相変わらず多忙だった

朝起きて15分で用意をして出かけ、夜は毎日

夜中1時〜2時の帰宅はあたりまえ

たまの休日も仕事の電話をしたり、時間があればとにかく寝ていた

本当に疲れていたのだろう

夫の話す時間はとても少なかった

わたしの病気のこともじっくり話せなかったし

夫がどんな状態で働いているかも知らなかった

 

病気になって3年目の11月、わたしは珍しく風邪を引いて熱も出た

でもそれは2、3日で治ったと思う

風邪が夫に移った

夫も発熱し寝込んだが、わたしから移った風邪なら数日会社を休んで寝ていれば治るだろうとわたしも夫も思っていた

熱が下がったのに夜になると頭痛が酷いと言っていた

もう一度病院に行ってもまた薬をもらうだけ

後は家で寝ているしかなかった

 

しかし夜だけ頭痛が酷いというのもなんだかおかしいし、その痛みはどんどん強くなっていった

夜中になると「頭が痛い」とわたしを起こす

そんな数日が続き、とうとう頭を掻きむしるほど痛みが強くなった

そしてなんだかよくわからないことを言ったりした

さすがに怖くなって夜中に救急で診てくれる病院に2人で行った 

わたしが「なにかおかしい」と訴えたが、夜勤の内科の医師は「風邪でしょう、何か言うのは高熱でうなされたんでしょう」と言った

夫がまた「そうかもしれません」などと言ったもので診察が終わってしまった

結局風邪の薬が出ただけ…

次の日もまた次の日も夜中の頭痛は続く

わたしは「絶対変だから、ちがう大きな病院に行こう」と言って昼間に別の病院に連れて行った

そこでわたしは失敗する

夫に付き添うと言ったら大丈夫と言うので一人で診察室に行かせてしまった

なので医師が「風邪ではないかも?」ということも言ったのに夫がわたしにそれをすぐ伝えなかった為、また風邪の診断だとわたしは思ってしまった

あの時その先生の一言を聞いていたら、すぐに検査してもらえたのに…

こうしてまた帰宅したが翌日の夜に夫は明らかにおかしくなってしまった

何かを訴えているのだが、呂律が回っていない

ちゃんと言えないので紙に書くと言ってペンを持つが何やらひらがなとか数字を書くのだが、全く意味がわからない

そして突然怒り出し大きな声を出す

立ち上がるとよろめいてバタンと転ぶ

わたしは救急車を呼ぼうと思ったが、もし遠くの病院に連れて行かれたら後が困る 

なので2日前の夜中に駆け込んだ病院に行こうと決めた

そして絶対詳しく調べてもらって入院させようと決めた

さて、寝ている息子はどうしようか?

連れて行くべきなんだろうが、この顔つきが変わってしまって暴れる父親の姿は見せたくないし、夫と息子2人をわたしが見るのは無理だった

わたしは大急ぎで息子に手紙を書き、起きる時間の目覚ましをかけ、学校に来て行く服を出し、朝食のパンを用意した

その時息子は3年生、大丈夫なんとかなる

そして転んで立ち上がれない夫を置いてマンションの近くの駐車場に車を取りに行き、マンションの出口に横付けにした

それまで頭痛がしてても、ペーパードライバーのわたしに運転して欲しくないからと自分で運転して病院に行っていたけど、もうそれは無理な状態だった

わたしが運転して行くと決めた

70kg以上ある夫をどうやってわたしは立たせて歩かせたのか?

馬鹿力というものなのだと思う

とにかく暴れる夫を抱えて玄関まで歩く

サンダルを履かせようとしても足が痙攣していてなかなか履けなかった

なんとか外に連れ出して助手席に乗せた

こんな状態でも夫はわたしの運転を心配していた…

夜中の4時頃だったので幸い車はほとんどいなくて、わたしの運転でも無事病院に着いた

また抱えるように病院に入ったら、それを見た看護師さんが車椅子を用意してくれた

車椅子の足置きのところに足を置こうとしても震えて乗せられない

それを見た看護師さんはただの風邪ではなさそうと感じてくれた

なのでわたしは大げさなくらい夫の様子がおかしいことを伝えた

わたしは安堵していた

これで命は助かるはず

やっと調べてもらえる、病名がわかる

ほんとは震えるくらい不安だったのだ

夜勤の先生はなかなか来なくて姿が見えても

ゆっくり歩いてくるのでイライラした

この間とは違う内科の先生だった

またもや呑気に「風邪かなー」と言うので

わたしはキレ気味に「物凄く頭痛が酷いし、

暴れたりわからないこと言ったりおかしいのです!」と必死で訴えた

そしたらようやく「じゃあ専門の先生が来るまで点滴打って待ちましょうか〜」と

あたりまえだろ!!

よかった、なんとか病院にとどまれる

脳外科の先生がくるまでの四時間を痛み止めの点滴をしながら待つことになった

わたしはベッドの近くでパイプ椅子に座った

点滴をしてしばらくしたら少しずつ体がビクッと痙攣してきた

狭い点滴用のベッドから落ちないかヒヤヒヤした

たまに看護師さんが覗きに来てくれるが、明らかに悪化している状況に待つ四時間がどれだけ長かったことか…

いつも息子が起きる時間にわたしは家に電話をかけた

目覚ましで起きた息子が出た

よかった

事情を話し、とにかく頑張って自分で用意して学校に行くように話した

思ったより1人で目覚めた息子は落ち着いていた

後で母に電話して家に来てもらおう

息子のことをお願いしよう

 

そして待ちに待った脳外科の先生が来た

夫の症状をわたしから聞いた先生はすぐに

髄膜炎かもしれないので検査しましょう」

と言った

やっぱり

実は髄膜炎ではないか?と思っていた

でもそうじゃないことを祈っていた

多分間違いないだろうと確信した

点滴用ベッドからストレッチャーに移す時には痙攣が酷くて先生と看護師さん何人かで大変だった

検査が終わって先生は「髄膜炎です、入院してください」と言った

まだどんな状態かわからないけど、

きっと助かるとわたしは疑わなかった

「普通は髄液の菌の数は2とか3位の数値なんですが、ご主人は1000ありました」と言われた

医学的な事はわからないが、物凄く悪いのだということだけはわかった

検査室から病室へとストレッチャーで移動してる間も夫は朦朧としてるので起き上がろうとするし、今度は痛みで吐くわで大変なことになっていた

 

髄膜炎というのはそれをすぐに治す薬があるわけではないので、点滴をし続けるしかない

だんだん髄液の菌が減るのを待つ

なので錯乱した状態は入院したからと言ってすぐには落ち着かなかった

しばらくベッドで寝ていた夫は目覚めたら起き上がろうとしたり、トイレに行くと言いだして聞かない

わたしが支えて付き添おうとするとすごい剣幕で怒るのだ

わたしはナースコールで看護師さんを呼んだ

そしたら夫はおとなしくなる

今度は点滴を抜こうとする

止めるとまたわけのわからないことを言いながら怒る

なぜかわたしのことを「このゴキブリが!」と言った

すっごく怖い

ナースコールを押す

しまいには看護師さんに「今の看護師の人数ではご主人に対応できません」と言われた

そして先生の判断で集中治療室に入ることになった

先生曰く「命が危ないから入るのではない、鎮静させたいのと、ちゃんと目が届く所がのぞましいから」と言った

こうして夫はICUへ入った