凜と生きる

私が経験した「鬱」というものについて

あなたが大嫌い

鬱になってから知り合って急速に親しくなった人がいた

好みが似ていて話していても楽しい人だった

お互い割と深い話までするようになり、鬱に対しても否定的ではなかったので

わたしは彼女に気を許していたし理解者だと思っていた

そうして数年経ったころ、わたしの調子が悪い時期が続いた

彼女と会った時も辛いということを話していた

特に「自分が嫌い」とよく言っていた記憶がある

ある時いつものように雑貨屋を回りカフェでお茶した時、彼女の様子が少し変だった

笑顔と口数が少ないようだった

 

そして彼女がわたしの愚痴と弱音を聞いた後に言った

「自分を嫌いと言うのはあなたを好きでいる人に失礼だと思う」

わたしはそんな考えは全く持ってなかったのでとても驚いた

そしてぐさりと刺さった

正論だな、と思ったけど受け入れられなかった

その日はなんとなく気まずいまま別れた

 

彼女とはSNSでも繋がっていて、ある日の彼女の投稿にわたしはとても引っかかってしまった

それでも誰もが自由に発言する場なのだから、気に入らなければ見なければいいのだ

でも調子が悪くてすべてを悪く取ってしまったわたしは、反発するようなコメントを書いた

気に強い彼女も負けじと反論を書いてくる

それが何回か続いた後、コメント欄ではなく直接メールがきた

内容は全部は覚えていないが、とても長い文章で怒りにあふれていた

「そんなことを言うあなたとは友達を辞める」

「わたしは思ったことははっきり言うように親に言われてきたから」

「大嫌い」

人生で初めて人から「大嫌い」と言われた

とてもとてもショックだった

友だちの縁を切ると言われたのも初めてだった

鬱のことは知っていてもそんなことは関係ない、鬱だからなんて認めないという様子だった

わたしはもう言い合う気力がなかった

わからないけどわたしが悪いことを言ったのだろう

気に障る書き方をした自覚もあった

だからわたしが悪いんだな

でもこんなに言葉で殴るような言い方しなくてもいいのにな...。

わたしはぽろぽろ泣きながら返信を書いた

「わかりました、気に障るようなことを書いてごめんなさい。

友だちを辞めていただいて結構です」

そのあとも何回かやりとりしたが覚えていない

ただただわたしはショックなのと悲しみと少しの怒りが残った

もうこれでこの人とは切れるんだと思ったのに、

彼女は言いたいことを全部言ってすっきりしたらしく

「全部言えたし、これでまた友達としてやっていきましょう」というようなことを書いてきた

わたしはズタボロだったのでそんな気持ちにはなれないと返信した

彼女も謝ってくれたし、このことを誰かに話してくれてもいいと言った

わたしは謝罪が聞きたいわけでもなかったし言いふらして気が晴れるなんてこともありえなかった

 

わたしたちは距離を置くことにしたが、どうしても仕事で月に一回顔を合わせる関係だった

わたしは仕事を辞めることも考えたがそれも理不尽な気がしたので割り切って

月一会ったら挨拶だけはしようと決めた

 

わたしは長い間この件を引きずった

人に「大嫌い」「友達辞めて」と言える人が信じられなかった

理解者と思っていたからこそ辛かった

この人はたとえ相手にも落ち度があるとはいえ、傷つけても平気なのか?

明日から普通に笑って暮らせるんだ、彼女は

最後に彼女は「あなたを傷つけたことは忘れないようにします」と書いていたけど

そんなことなんの慰めにもならなかった

 

月に一回会うのが続き、わたしの気持ちも落ち着いてきて私たちは普通に会話できるようになった

もうわたしは深い話は絶対しないと決めたしこの人はきついことを言う人だから

気を付けようと思って付き合うようになった

年に一回くらいはまた一緒に出掛けることもあった

でももうほかのSNSでは繋がらないようにした

わたしはまだ心の狭い人間のままだった

 

 

そして元気になった今、彼女とは前ほどは親しくしていないが、普通に笑って話せるし

わたしの中に怒りも悲しみもない

わたしは思ったのだ

人を傷つける人は自分も何かに傷ついている人なんじゃないだろうか、と

幸せな人は人に傷つけることなんて言わない

当時、彼女は何かに傷ついて悩んでいたのではないだろうか

ならば彼女は悪くない

無意識にその辛さが彼女の言葉を鋭いものにしてしまっただけのこと

わたしも傷つかなくてよかったことだったのだと

彼女は今は友だちか?と自問すると「友達とは少し違うな」と思う

以前は急いで距離を縮めすぎたと思うから今は適度な距離を保っている

 

そしてもうひとつ気付いたのは、彼女を悪く思ったのと同じくらい本当は彼女が羨ましかったのではないかと

わたしのできないことをその行動力でやってしまうとこ

自分の気持ちをまっすぐ言えるとこ

目立つことにためらわないこと

・・・たくさんわたしにはなくて本当は欲しいものを持っていることに嫉妬していたのだ

自分は鬱で動けないし自分を好きになれないし、やりたいこともできないのにって

 

当時は本当に辛かったけど今はどちらも悪くないと思う

やっぱりわたしは何でも思ったことを相手が傷つくとわかっていて言う気にはならないし、そんな時はただ離れればいいと思う

でも彼女の生き方に干渉する気はないし、言うなればどうでもいいことだ

 

誰からも嫌われたくないと強く思っていたわたしにとって

誰を大事にしたいか、友達とはどういう人かを考える出来事になった